無風を待つ人の記録

風に流され生きてきた 風が止んでも生きていたい

ブラックメタルという現象: ”Until the Light Takes Us"


Until The Light Takes Us (Official Trailer)


「松嶋×町山 未公開映画祭」にて購入・鑑賞。ここで付けられていた邦題は「ライト・テイクス・アス 〜ブラックメタル暗黒史〜」。


ノルウェーブラックメタル黎明期における二人の重要人物、BURZUMのカウント・グリシュナックことヴァーグと、DARKTHRONEのフェンリズことギルヴを中心としたドキュメンタリー。


ノルウェーブラックメタル界の悪名は、メタルに興味ある人なら大体耳にしたことがあってこういう感じでネタにされる程度には伝説化している状態だったけれど、実際にそこで何が起こっていたのかが当事者の口から語られた貴重な映像だ。この界隈での代表的なエピソードについてはだいたい言及されており、非常に具体的な生々しい証言が聞ける。猟銃自殺したバンドメンバーの現場写真を次のアルバムのジャケットに使った事件、ユーロニモス(当時のシーンの中心人物の一人)刺殺事件、血塗られたその歴史を、今や髪も切ってどこにでもいそうな中年となったヴァーグが振り返っていく。


彼はその刺殺事件や数々の教会への放火のかどで、21年というノルウェーでは最大級の重い懲役を課されている。現在も服役しながら、時折帰省して妻子と過ごす日々を送っている。良くも悪くも(主に後者だけど・・・)巨大な影響を世界に及ぼした、若気の至りとも言える自らの過ちを冷静に振り返るその語り口は、穏やかで理知的でさえある。メディアと噂によって作られたイメージとのギャップに驚かされる。


ひとつ学んだのは、この系統の真性ブラックメタルを指して「サタニック」「悪魔崇拝」といった語で形容するのは本来的には正しくなかったということ。

元々ヴァーグが反キリスト思想に傾倒した背景には、ノルウェーという土地が、歴史的にキリスト教文化圏に侵略され、固着文化を破壊されてきたことに対する怨恨がある。

「反キリスト」=「サタン」という文脈が生じるのはキリスト教の教義世界の中だけの話で、キリスト教そのもののアンチだった彼らに対して「サタニスト」という表現は適当でない。本人たちも言及しているが彼らは「サタン」には別に興味がない。

いわゆる悪魔崇拝的な側面が生じたのは、彼らの行為がメディアで大々的に取り沙汰され、多くの模倣者が現れて一種のブーム・ファッションとなってしまってからだった。メッセージを失ったテロリズムが暴走し、ヴァーグたちは望まぬ形でそのアイコンとなった。人間関係も一変し、そしてユーロニモス刺殺という破滅的な事件へと繋がっていく。


あと、音楽的な話題で面白かったのは、悪名高いその音質のこと。当時のプリミティブブラック(ジャンル初期からある一番混じりっ気のないブラックメタルのこと)には音質は悪いほど良いというアングラ界によくある倒錯した価値観があって、ヴァーグもギルヴも、ヘッドセットマイクとか安物のミニアンプとか中古のジャンク寸前のテープレコーダーとかをわざと使って積極的にクソな音を目指していったということを語っている。


以前からこの界隈の伝説を知っている人間にはとても興味深かった。そうでない人にも楽しめるかどうかは不明。

2011-02-05 追記


>> KICK TO KILL: Mayhem - Full length rehearsal (with Dead and Euronymous) in Krakstad, Norway 1988


作品中でもその死について語られていた、デッドとユーロニモスの両名が存命だった頃のMayhemの映像。貴重な映像かもしれないが、もう何が何だか全然わからん音質。


>> MAYHEM・Hellhammerインタビュー - Hellhammer・Euronymous


さらに参考リンクとして、Mayhemの豪腕ドラマーことヘルハマーが語る彼らのこと。