無風を待つ人の記録

風に流され生きてきた 風が止んでも生きていたい

欲しいものは皆同じ、を再確認する: "Where in the World Is Osama Bin Laden?"


Where In The World Is Osama Bin Laden? Trailer


「松嶋×町山 未公開映画祭」にて購入・鑑賞。ここで付けられていた邦題は「ビン・ラディンを探せ! 〜スパーロックがテロ最前線に突撃!〜」。字幕つき予告はこちらで。
(字幕なしで良ければ、hulu.comに全編上がってるみたい)


スーパーサイズ・ミー」でおなじみ、ドキュメンタリー界の体当たり芸人ことモーガン・スパーロックが、米軍とCIAがいまだにビンラディンを見つけられていない状況に業を煮やし、それなら俺がビン・ラディンを見つけ出してやる!と単身アフガニスタンに乗り込む映画。


序盤はテンポ良くくだらないノリで観客をつかみ、上手にシリアスなテーマを噛み砕いて織りまぜながら自説につなげていく作りは「スーパー・サイズ・ミー」から変わっていない。二次大戦以降の米国と中東の外交関係の歩みも簡単におさらいしてくれるので、あまり背景を知らない人にも勉強になる。(もちろんスパーロック流におもしろおかしくされているので、そのまま鵜呑みにせずにあとで勉強しなおしたほうがいいけれど)


もちろん、というかわざわざ書くだけ野暮なんだけど、監督は本気でビン・ラディン当人を見つけられるとは思ってない。彼が見つけようとしている「ビン・ラディン」とは、ビン・ラディンを生み出し、ビン・ラディンに象徴されている「何か」、アメリカ社会がイスラム世界全体に対して漠然と抱いている恐怖の本質のこと。監督は行く先々で一般市民に「ビン・ラディンはどこ?」と問いかけ、その質問をきっかけにしてできる限りの本音を引き出すよう試みる。


さて、そういうテーマではあるけれども、彼はいきなり直球ド本命のアフガン・パキスタンに向かうようなことはあえてしない。尺が足りないとか映画的な理由ももちろんあるけど、彼は先にエジプト・モロッコ・イスラエル・サウジ、と寄り道しながら、それぞれの国で人々が今の状況をどう思っているのか、彼らには何が見えているのかを探って回る。


それぞれの国の中に様々な人がいて、みな異なる意見と感情を持っている。テロ思想が生まれる土壌について解き明かそうとするとともに、アメリカ人が「イスラム世界=テロ」とひとくくりにして漠然と抱いている無知からくる恐怖に対して、「幽霊の正体見たり」とばかりに克服を図る。必然的に、自分が後にしてきた「アメリカ」の、内側からは見えなかった別の姿にも出会う。

そんな過程も面白いけれど、やっぱり単純に、日本人には区別のつけにくい人々のそれぞれ全然違う立場と感情とを見られたことが一番良かった。


土地を追われた人、家族を失った人、明日の飲み水にさえ事欠いている人、戦火に怯える人、体制の目を恐れる人、自由を求める人、家族を守りたい人、復讐を誓う人、ただ心穏やかに暮らしたい人、祈る人、無関心な人。それを見つめる子供の瞳。

「(ブッシュもオサマも)どっちもくたばれ」と吐き捨てる老人。

憎しみだけが残る。

でも、みんな心の中で思っていることは同じ。みんな同じものが欲しいだけ。それを最後に実感させるシーケンスで、映画は終わる。


スーパーサイズ・ミー」よりずっと中身のある良作だと思う。