壁にぶつかり続けた二つの卵: マリオ・バルガス・リョサ「楽園への道」
- 作者: マリオ・バルガス=リョサ,田村さと子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2008/01/10
- メディア: ハードカバー
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読了メモ。
作者バルガス・リョサは国際ペンクラブ会長で、去年ノーベル文学賞を獲った人で、その昔ペルー大統領選でフジモリに負けた人。ラテンアメリカ文学に最近興味を持ち始めて読んだ。
西洋的価値観に侵される前の原始の美を追い、全てを捨ててタヒチに渡ったポールゴーギャンと、彼の祖母で、理想郷を夢見て革命運動に奔走した社会主義活動家フローラ・トリスタンの二人の半生を、ザッピングしながら並行に辿っていく。直接交わることのない二筋の物語が至るところ対比的で面白い。地の文では語り手自身が主人公たちに語りかけるという二人称視点になっていて、加えてあらゆる細部で作者の想像力がもはや改竄と言ってもいいレベルで踏み込みまくっていて、ある程度事実に基づきつつもいわゆる「伝記」の枠から完全に逸脱しているのがさらに面白い。
思想志向は全く違えど、世間に対し最期まで反抗し続け、惨めに、しかし気高く死んだ二人への作者の目線はどこまでも優しい。村上春樹がエルサレムで言った、「高くて、固い壁があり、それにぶつかって壊れる卵があるとしたら、私は常に卵側に立つ」の言葉を思い出した。リョサもまたそんな作家の一人なのだろうか。それでいて国家・システムという「壁」の頂上にある大統領の座を目指そうとしたのは興味深いといえば興味深い。
ゴーギャンというか印象派・ポスト印象派は全体的にあんまりわからないんだけど、妻がそのへん好きで画集や図録をたくさん持ってるので、この機にいろいろ借りてみるつもり。今ちょうど京都市美術館でこんな展示やってるので、これも行ってみたい。