無風を待つ人の記録

風に流され生きてきた 風が止んでも生きていたい

Earth, Dylan Carlson and Kurt Cobain


Earth feat. Kurt Cobain - Divine And Bright


ドローンドゥームと呼ばれるジャンルの代表的バンドEarthの初期デモ音源で、親友カート・コベイン(コバーン)がヴォーカルで参加した一曲。カートの一生を決定的に変えた"Nevermind"が出る直前の1990年に収録されたらしい。


Earthのリーダーであるディラン・カールソンはカートの親友であり、彼に初めてのヘロインを教えた男であり、そして彼が最期に用いたショットガンを買い与えた男でもある。(cf. Wikipedia: Dylan Carlson
後日ディランは、カートにショットガンを与えたことを後悔していると語っている。「家での自衛のため」というカートの弁を真に受けたという彼、「あいつの性格がわかっていなかった」という。*1


この頃のEarthの音楽は、まさに聴く者を混沌の深淵に引きずり込むような暗黒ドローンサウンドで、このジャンルの歴史的大傑作と言われる伝説的アルバム"Earth 2: Special Low Frequency Version"を残している。*2「限りなく暗黒に近いブルー」とでも形容すべき、始まりも終わりもない妥協なき音響の嵐の奥に、どこか漂う静謐さが鮮烈な印象を焼き付ける。



Earth - Seven Angels ("Earth 2: Special Low Frequency Version"所収) *3


Earth 2

Earth 2


カートが他界したのはこの翌年。ディランもその後本格的に深刻なヘロインの幻覚と混濁の中で心身共にボロボロになっていく。
彼が音楽活動に復帰するには、8年の歳月を要した。



Earth - The Bees Made Honey in the Lion's Skull


そのEarthの今のところ最新作である"The Bees Made Honey in the Lion's Skull"(2008年)は、紫煙と砂埃舞う茶灰色のドゥーム・ストーナーロックとも、精神力をゴリゴリ削るような漆黒の圧殺スラッジ・ドローンとも違う、独特の色のある世界を持っている。



Earth - Hung From The Moon


茫漠とした暁の荒地、地平線より目も眩む鮮やかな輝線が、徐々に徐々に光量を増しながら突き刺してくるような情景。
初期の精神性を保ちつつ、そのまま闇から光へ一気に質量反転を起こしたような世界観に度肝を抜かれた。
全てをニュートラルに呑み込んで無限の反復に向かって溶け込んで行く様は、まさにそのバンド名に相応しい優しさと冷徹さを備えている。
薬物依存と戦った8年の間に、いったいどんな変化が彼に訪れたんだろうと思う。


Bees Made Honey in the Lions Skull

Bees Made Honey in the Lions Skull


「涅槃」を掲げたカートが、なまじ天上に祭り上げられてしまったがために終焉を迎えた一方で、「大地」を掲げたその親友は、一度地の底を見て来たからこその深化を続けている。何とも皮肉なものだ。

*1:そのインタビューの映像はこちらで視聴可。

*2:ちなみに、当時のメンバーはディラン含めたったの二人。

*3:言うまでもなく、映像はファンの手によるもの。デヴィッド・リンチの「イレイザーヘッド」の映像が使われている。